ここはかくれが、ふたりきり。

わたしがいて、あなたがいる。あなたがいて、わたしがいる。どちらが先かに意味はなく、このひとときに、ひとりになれる。

ここは高知でとなりは君で、旅路の空はかくも語りき。―行程ノ一:8/18―

 誰が名付けたかは知らないが、日本のカレンダーには鉱床が眠っている。一般的に格言通りとはいかないところが日本的愛嬌と言えばそれまでかもしれないが、しかし、私にとってはまさに格言通りとなった一年と言えるであろう。とはいえ、まばゆい輝きも奥ゆかしい輝きも楽しんでしまおうという心持ちは、まさに日本的な行動の現れともいえるかもしれない。

 

 ということで、シルバーウィークに3泊4日の日程で高知県へと行ってきた。どうやら同じくスケジュール帳の空白を持て余していた友人からの誘いを受け、それならばと計画を練り始めたのが出発日のおよそ2週間前のこと。友人がピックアップした行きたい場所をマップに落とし込み、私の行きたい所も勘案しながら旅程を作成、レンタカーの手配やら経路の確認を済ませ、慌ただしいながらも準備は整っていった。

 

 初日(8/18)は、大阪でレンタカーを借り受け、夜通し車を走らせて室戸岬で車中泊、という移動日に当てた。ルートはこちら。友人の仕事が終わるのを大阪で待ち、合流後、レンタカーで阪神高速3号神戸線に乗り、第二神明を経由して神戸淡路鳴門自動車道へと入り、一旦、淡路SAで休憩がてら車を停める。淡路島へはご存じの通り、明石海峡大橋を通ることとなるが、もうしばらくすれば日付も変わるという時間に渡る大橋には興奮を押さえることができなかった。交通量もさして多くはなく、眼前に圧倒的な大きさで待ち構える姿に、「うっひゃー!」だの「うおー!」だの「来てよかったー!」だの、あいにく運転していたので写真は撮れなかったが、あの時の感動が胸に今も焼き付いている。幸先の良い旅である。

 

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(スタバ前のテラス的な広場からの一枚)

 

 24時間営業のフードコートで淡路玉葱ラーメンを食し、写真を撮ってから淡路SAを出発する。ここからはただただひたすらに室戸岬を目指して運転していく。モンスターエナジーでドーピングをし、ミンティアのドライハードで口内を傷めつけるということを繰り返していると不思議と眠気が来ることはなく、押し寄せる疲労と闘いながら3、40km/hという遅さで真っ暗な道を進んでいった。

 途中で横断するタヌキを轢きそうになったり、轢かれて道路に横たわるタヌキに「成仏しろよ」と呟いたりしながら、着実に室戸岬へと近づいていく。車のハイビームでさえ呑み込んでしまうほどの暗闇を海沿いの道は携えていて、ガードレールに備え付けられている反射材だけが道標だった。

 淡路SAを出た時には123km以上を示していたカーナビの残り距離も、10分の1以下になってくると、肩に重さがのしかかってくる。きっと安心して気が抜けていたのだろう、「目的地に到着するまでが遠足よぉ」と自分に言い聞かせ、首を鳴らし肩を回して運転を続けていく。友人はシートベルトが意味をなさなくなるくらいに背もたれを倒して、心地よさそうに眠っている。しかし怒りを抱けるほどの余力もなく、室戸岬を我が原動力として、アクセルを踏み続けた。

 

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(室戸岬にある駐車場から)

 

 頭に掛かっていた靄が晴れ渡り、再び私は興奮した。一応写真を撮ってはみたものの、私の技術ではまだ添え物程度にしかなっていないのが悔しいが、とにかく星空が美しかった。「ああ、来てよかった」と、しみじみ感じ入ったものである。後ろの山を登ったところにある灯台には日本で最大のレンズが使用されており、投じられる光槍は時計の針のように回り続け、この星空に明かりを薄塗りして夜を明けさせんとしているかのようだった。遠洋に見える漁船の灯りだけが、辛うじて目の前が海であることを教えてくれていた。暗がりから聞こえてくる低く舐めるような雑音は腸を直に掴んで揺さぶってきて、恐怖に脚の肌が粟立つのを感じる。

 

 到着した時点の時刻はAM4:30付近。大阪を18日午後10時に出たので、実に7時間近い移動となった。しかしあの星空を見られたので、疲れも吹き飛んでしまったというのが正直なところである。肌寒さを感じながらそれでも写真を撮り続け、そろそろ寝るかと思って車内に寝床を設置したものの、薄っすらと空が白み始めているではないか。

 そう。この室戸岬には、星空と朝日を見に来たのである。ここで寝てしまっては片手落ちになることこの上ない。どうせ明日(正確に言わなくとも今日、19日なのだが)の運転は友人なのだから 、構うこたあねえ、起きて夜明けを拝むぜよ! と、片付けたカメラと三脚を引っ張りだして、伸びをして朝の冷気をけだるい身体に通し、いざいい場所へ。

 

 さて、行程ノ一はここまで。続きは行程ノ二でどうぞ。