ここはかくれが、ふたりきり。

わたしがいて、あなたがいる。あなたがいて、わたしがいる。どちらが先かに意味はなく、このひとときに、ひとりになれる。

ここは高知でとなりは君で、旅路の空はかくも語りき。―終ノ行程:8/22―

 新しくやって来た朝を希望と断じ、あまつさえ胸を開けるだけの喜びがあることを知っている人間というものが果たしてどれだけ存在しているのか、聞いてみたい。しかしながら、この閉塞感にまみれた現代において、「今日」は灰色なものと、私達は思い込まされているのではないだろうか。どうせ見えないものならば、私達が光を当ててやればよいのだ。卑屈になることはない、背中を丸めることもない。「今日」が輝かしいものだと思い込むことこそが、真に「今日」を明るくするものの正体なのである。

 

 相対性について、アルバート・アインシュタインは言った。『熱いストーブの上に手をかざせば一分間が一時間に感じるが、可愛い女の子と一緒に一時間座っていても、一分間くらいにしか感じられない(意訳)』と。つまり何が言いたいのかというと、私にとっての「熱いストーブ」は「試験勉強」であり、「可愛い女の子とのデート」は今回の旅行である、ということだ。どういうことだ。

 気がつけばすでに連休も終盤――正直、毎日がエブリデイな私にとって、はたして「連休」という呼称が適切かどうかは分からないが――、カレンダーが恥じらいを忘れる頃合いに差し掛かっている。振り返るとあっという間だった。おそらく3分の2が移動時間だったと言っても過言ではない今回の旅行だったが、残りの3分の1が濃密であれば、それで何の問題もないのである。大掛かりな移動をすれば疲れるのは必然。この疲れもまた旅の思い出として記憶に刻まれるのだろう。

 最終日のルートはこちら

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  私達は後ろを振り返ることもできるが、前を向くこともできるのである。明けない夜がないのと同じように、自分を信じることも大切なのである。

 

  さて、ルートを見てもらえば分かると思うが、ちょっとした大移動である。しかも半日以上を費やす。連日連夜、車内で過ごしてきた身体にとってこれほどまでに過酷な現実もそうはあるまい。しかし「家に帰るまでが遠足」という金言の通り、ここが一番の気の入れどころ、連休明けの紙面を流血で飾ってしまうことだけは避けなければならない。私一人の命ならばまあいざ知らず、隣には人を乗せているのだから、ハードルはガンガン高くなっていく。とはいえ、油断しなければよいだけの話で、4年間無事故無違反の優良ドライバーの意地に掛けて、無事に帰る。今日の目標はそれだけである。

 

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  今度はもっと、月明かりのない時に来たいものだ。

 

 朝の5時半頃に車から這い出して、夜明けを見るために展望台へと向かう。すでに展望台は人で溢れていて、皆、吹き付ける風に身を縮ませながら今か今かと朝日を待っている。が、あいにく帯状の雲がちょうど朝日がお目見えする部分にかかっていて、朝日を拝むことはできなかった。まあこれもまた旅の思い出。車に戻り、侵入してきたやたらとでかいヤブ蚊と格闘して(5機撃墜。潰したヤツが血を吸ってると萎えるよね)、8時くらいには足摺岬に別れを告げた。みさき~めぐりの~♪

 

 まずは一番近いコンビニで朝ごはんや物資を補給すべく県道27号線を走っていく。山道は避けられたがこちらは狭い道だった。その途上、「土佐清水さかなセンター 足摺黒潮市場」なる建物を発見、急遽お土産を調達すべく立ち寄った。

 

 私「これって開いてますかね……?」

 女性「あぁ、開いてますよ~。いらっしゃいませ!」

 

 よかった。とりあえずお礼を言って、まずはトイレ。それから服を着替えていざ潜入。まあこんなもんでよろしかろうと思えるだけのお土産を買い、再びコンビニに向けて走り出す。しばらくすると「足摺サニーロード」が始まる(何か特別なものがあるわけじゃない、ただの道)。コンビニで補給し、次いでガソリンを補給し、ふれあいパーク・大月でトイレ休憩、宿毛で国道321号線から国道56号線に乗り入れ、津島岩松ICから宇和島道路に入った。途中で「道の駅 みま」に寄り、あとは石槌山SAまでノンストップである。眠いわ。

 友人とバトンタッチ後、いつの間にか意識を手放しており、気が付くともう間もなく川之江JCTというところだった。予定ではここで徳島自動車道に入って淡路SAに行くはずだったが、せっかくだからという頭が湧いていたとしか思えない実に馬鹿げた理由で高松自動車道の「津田の松原SA」で讃岐うどんを食し、再び運転を交代して淡路SAへ。

 もうね、大混雑。「うはwwwおkwww把握wwwwww」と笑うしかないほどに混雑しており、お土産と物資を補給し、これから先は止まらないのでレンタカー返却のために車上を整理、大渋滞の中へと突っ込んでいった。

 ところで、渋滞の車がSAの駐車場で列をなしている中、並ばずにその脇から列に入ってくる車がいたんだが、そいつが頭のイカれたクソゴミクズ以下の社会の塵芥であることはまず間違いないにせよ、そいつを列に入れる車も同罪だとは思わんかね? それは優しさなどでは断じてない。お前は「良いこと」をしたつもりなのかもしれないが、貴様はその瞬間に少なくとも並んでいる私から「偽善者」というレッテルを貼られているのだ。ああ、このことに関しては、私はおかしいことを言っているつもりはない。誰が非難しようとも、横入りを許すようなノータリンを、私は断じて許さない。断じてだ。

 

 明石海峡大橋の上をクリープだけで進んでいく間、ラジオで交通情報を聞くくらいしかすることがなく、上空を飛んでいた報道ヘリらしきヘリが楽しそうに見えたのは、きっと私だけではないはずだ。しかしまあ、こんなにも進まない渋滞に運転手として嵌ったのは初めてで、嬉しくもあった。レンタカーの返却時間だったり夜遊びの時間だったりが気になりはしたが、やはり連休、渋滞が起こってナンボなのだ。そういう意味では、最後の最後に「連休らしさ」を経験できて良かった。これもまた旅である。

 

 そんなこんなで大阪に到着したのが21時ちょうどくらい。21時から夜遊びの予約を入れていたので慌ててコンビニで現ナマを補充し、お店に駆け込んだのだった。

 

 

 最後までドタバタしていた旅行は、一応、この日で幕を下ろした。しかしながら私の身はまだ旅の空の下。家に帰るまでが遠足ですよ。

 

――あと1回だけ続く。